Knapp’s lawとは
Knapp’s lawとは「軸性屈折異常の場合、目の第一焦点に眼鏡を掛ければ、その網膜像の大きさが変わらない」とあります。
これは相対眼鏡倍率についての事でありかつshape factorを無視した時に成り立つというものだそうです。
Knapp’s lawからすると不同視眼(左右の度数差がある目)に対して、その目が軸性であれば不等像の心配することなく普通のメガネの度合わせと同じで良いということになります。
ここで問題なのはその目が軸性なのか、屈折性なのか、はたまた混在なのか眼軸長を測定するなどして眼鏡店で判断することは不可能ということです。
但し後で述べますが、屈折異常眼をテストレンズで矯正したうえでコの字テストをしてみて、左右のコの字の大きさに違いが無いかわずか(2%以下)であれば度数差を気にしないでメガネ処方をしてよいと筆者は考えています。(実務では、融像力も考慮にいれないといけませんが)
そのような訳で、コンタクトレンズフィッターでもある私にとって度数差があるという理由だけでコンタクトレンズを勧めるのは短絡的な決め方だと思っています。
相対眼鏡倍率RSM(relative spectacle magnification)とは
相対眼鏡倍率RSM(relative spectacle magnification)は「眼鏡矯正眼でのはっきりした網膜像の大きさと標準的な正視眼ではっきりした網膜像の大きさとの比で定義される。」とあります。
Knapp’s lawの考察
Knapp’s lawの話を進めるにはまず標準的な正視眼なるものを定義しなけばなりません。今回引用するのはhelmholtzの模型眼です。
helmholtzの模型眼によると標準的な正視眼は、
前焦点(第一焦点)は角膜前面15mmのところにあり、後焦点(第二焦点)は角膜後方24mmのところにあるそうです。
それが、下図です。

物側から光軸に平行に入射した光線は、後焦点に集まります。光の逆進性より後焦点からの光線は眼前で光軸に平行に射出します。
それが、上図と下図①です。

前焦点から発せられた光線は眼内にて光軸に平行に進みます。光の逆進性より眼内にて光軸に平行な光線は眼前で前焦点に集まります。
それが、下図②です。

メガネレンズの光学中心に入射する光線はレンズ通過後もそのまま直進します。
それが、下図③です。

もし③の図でレンズの主点が前焦点の位置にあったとしたら②の図の光線経路と同じになります。
薄肉レンズではレンズの第一主点と第二主点は同じ場所にありかつレンズの後頂点とも共有します。
(レンズの第二主点と前焦点が一致すれば厚さのあるレンズではもKnapp’s lawが成り立つかも知れません?)
それが、下図④です。

次に軸性の近視の図です。矯正レンズが装用されても眼内の光線の振る舞いは変わらず光軸に平行に進みます。下図⑤です

図⑥より
目の奥行きが伸びても光線は眼軸に平行に進むため映像の大きさに変化はありません。それゆえ
軸性屈折異常の場合、目の第一焦点に眼鏡を掛ければ、その網膜像の大きさが変わらないということになります。
凹レンズなどは中心厚がかなり薄いのでそのままKnapp’s lawを当てはめて差し支えないと筆者は考えています。「不同視でもメガネは作れます」

もし下図⑦のようにレンズが前焦点より目に近いところにあれば、前焦点を通過した光線(赤線)は凹レンズにて基底方向に曲げられ眼内に進みます眼内では光軸に平行に進み映像は目の第一焦点に眼鏡を掛けた時に比較して拡大されます。その最たるものが角膜上にフィットするコンタクトレンズです。コンタクトレンズの方が不等像になります。(これも理論上ですのでコの字テストで最終判断をしています)

ここで凸レンズの場合はどうか考えてみます。
下図⑧より凸レンズが前焦点より目に近いところにあれば、前焦点を通過した光線(青線)は凸レンズにて基底方向に曲げられ眼内に進みます眼内では光軸に平行に進みますが映像は目の第一焦点に眼鏡を掛けた時に比較して縮小されます。その最たるものがコンタクトレンズです。コンタクトレンズの方が不等像になります。

融像力の考慮
今
不同視ではあるが、不等像視がない右眼-5.00D左眼-2.00Dの近視眼のメガネ処方について考えてみます。
下図のように光学中心より下方2cmを注視したとすると
プレンティスの公式より
右眼では10△のbase downが生じ 左眼では4△のbase downが生じます。
左右差が6△となり両眼単一視に負担がかかります。克服できる融像力があれば問題ないでしょうが、弱ければ注意が必要です。

プレンティスの公式とは
レンズのプリズム作用は「光学中心からずれた距離cm」と「度数D」の積で現わされます。
例えば-5.00Dのレンズで光学中心から2cmずれたところのプリズム作用(プリズム量)は
5×2=10で10△(プリズム)の作用が生じることになります。
融像力が弱いときの対処方法
単焦点レンズの場合
目線だけ下げないで頭を下げレンズの光学中心で見ることで解決出来ます
側方視も全く同じで頭を回転させレンズの光学中心で見ることで解決出来ます。
では遠近両用レンズの場合はどうか?
遠近両用には境目のある二重焦点レンズと境目のない累進レンズにおまかに分けられます。残念ながら単焦点と同じ方法では解決に至りません。
二重焦点レンズではスラブオフ加工というものがあるので比較的簡単に解決出来ますが、累進レンズの場合はなかなかやっかいです。
スラブオフ加工とは
不同視と老視がある方に片方の近用部(小玉)のみに左右の上下プリズム差をなくすか差を少なくするためにバイフォーカルレンズに行う特殊加工。
境目のない遠近両用レンズでは境目の見え方が犠牲になるものの最近レンズメーカーのTSLから発売されているようです。(筆者はまだ現物を見ていませんが)
コの字テストは必須です
コの字テストの概略
コの字テストは偏光板を用いた5メータ視力表で行います両目を明けた状態で左のコの字は左目だけで見えて、右目のコの字は右目だけで見え中央の○は両眼で見える視表です。検眼レンズやコンタクトレンズ装用下で左右のコの字の大きさが同じならその矯正用具では不等像はないと言えます。下の図のように差がある場合上下あわせて1幅までなら3.5%、上下1幅なら7%の不等像があると言われています。
不等像視の患者500 人が訴える症状の臨床報告 (Bannon&Triller 1944)を参照ください

重要ポイント
実務では、軸性なのか屈折性なのか、はたまた混在なのか目の中を調べる訳にはいきません。
現実的には、求められた完全度数のテストレンズを装用し偏光視表を見てもらうのが一番だと考えています。もし検眼用テストレンズにて左右のコの字に大きさの差異がなければメガネ処方が出来る可能性が高く、
左右差があればコンタクトレンズ装用下で同じくコの字テストをしてみます。不等像に関しては左右差の少ない方が矯正用具として優れているということになります。