目次
網膜像を拡大するサイズレンズの考察
網膜像をコントロールするサイズレンズが、眼鏡店、眼科医療でほとんど知られていない現状があり、まとめてみました。2024年9月
網膜剥離術後や黄斑前膜に罹患し左右で物の大きさが違って見え不快な思いで過ごされている方が、眼科関係の方や眼鏡関係の方に相談されても、「解決するレンズはなく慣れるしかないと」言われたとおっしゃいます。
視能訓練師の教科書や眼鏡学校の教科書には不等像に対するレンズが確かに記載されていますが、実用的でないと考えているようで数行しかありません。よって、知らないのは仕方ないことだと思っています。
アイケアシステムの店長である私は、その実用的ではないと思われているレンズを実務に生かせないかと勉強を重ねた結果、実用に耐えうることを確認しましたので、10数年前からサイズレンズの名称で取り扱いを始めました。また当店のホームページでもサイズレンズを告知してまいりました。
しかしながら、未だ専門家にさえ認知されない状態です。そこで、この度サイズレンズについて専門家向けに情報発信することにしました。お読みいただき、網膜剥離術後や黄斑前膜でお困りの方に不等像を解決するレンズと言う物があるらしいと伝えていただければ幸いです。
サイズレンズ処方に必要な検査
- 片眼遮蔽屈折検査
- 両眼視検査(偏光視標を用いた検査 例えばドイツ式等)
- テスト用サイズレンズにて効果確認
- 処方
- フレームに合うレンズをシミュレーションした上で 度数、中心厚、前面カーブ、屈折率等をメーカ指定で発注
よく目にする眼球と光線の図
網膜像の話のまえに、
一般に屈折異常を説明するとき以下の図が用いられています。これは角膜と水晶体を一つの凸レンズに置き換えて屈折異常等を説明するのに都合が良いからで、実際の光線の進み方とは違うと言うことをまずは押さえておきましょう。
実際の光線の進み方は以下のようになります。
眼前無限遠にある物体「ツリー」からの光線は入射瞳を通り網膜に反転され映されます。この映像が出来る場所によって、例えば網膜の前に映れば近視、網膜の後ろに映れば遠視と呼ばれる屈折異常となります。網膜にぴったり映るのを正視と言います。
お話を本題に戻ります。
物が大きく見えるとは?
物体が大きい場合
目から同距離にある物体Aが物体Bより大きければ、網膜でも像Aは像Bより大きい。(大きい物ほど大きく見える)
物体の大きさが同じで目からの距離が異なる場合
同じ大きさでも物体Bが、物体Aより目に近ければ、網膜では像Bは像Aより大きい。(目に近いほど大きく見える)
物体の大きさも目からの距離も異なる場合
物体の大きさも目からの距離も異なる場合の網膜像の大きさ
上の図で
物体Aの高さをa a’ 物体Aの網膜上での像をA₁高さをa₁ a₁’とし
物体Bの高さをb b’ 物体Bの網膜上での像をB₁高さをb₁ b₁’
物体Aが入射瞳で張る角度をθa
物体Bが入射瞳で張る角度をθb
物体A,物体Bから入射瞳の中心までの距離をLとすると
物体Aの張る角度=θa 物体Bの張る角度=θbとすると
θa:θb=A:B=A1:B1なので---------①
θa:θb=A1:B1である。-----------------②
tanθa=\(\frac{A}{L}\)---------------------③
tanθb=\(\frac{B}{L}\)---------------------④
L=\(\frac{A}{\tan\theta a}\)------------⑤
L=\(\frac{B}{\tan\theta b}\)------------⑥
⑤と⑥より
\(\frac{A}{\tan\theta a}\)=\(\frac{B}{\tan\theta b}\)
A:B=tanθa:tanθb
また①より
A1:B1=tanθa:tanθb--------⑦
θが小さい角度の時はtanθ=θが成り立つので
A1:B1=θa:θb
つまり
網膜像の大きさは入射瞳面に於ける物体の張る角度に比例します。
網膜像の大きさは入射瞳面に於ける物体の張る角度に比例する。
上図のように物体の大きさや距離が違っていても物体Aの張る角度と物体Bの張る角度を調べれば網膜像の大きさの比がわかります。
入射瞳を基準にするも角膜頂点を基準にするもθaとθbの比は変わらない。
入射瞳を基準にするも角膜頂点を基準にするもθa:θb=θa’:θb’なので、参考文献では入射瞳を基準にしている物や角膜頂点を基準にしている物があります。
矯正レンズを装用してないときのボケた網膜像の大きさと矯正レンズを装用しはっきりとした網膜像の大きさとの比を眼鏡倍率SM=Spectacle Magnificatioといいます。
矯正レンズを装用した時の網膜像の倍率について
下の図について
角膜頂点から物体までの距離をf'角膜頂点からレンズまでの距離をaとしたとき目の前にある物体Aの裸眼の時の網膜像の大きさと焦点距離f1のレンズを装用したときの網膜像の大きさの比を考えてみます。
θが小さい角度のときはtanθ=θなので θ1:θ2=1/1-aFと表されます。
厚みを無視できるレンズでは、裸眼のままの網膜像と矯正レンズを装用での網膜像の大きさの比は上の式で求められます。
また、
薄肉レンズの度数要素に関係するSMs(Spectacle Magnification)は上の式で求められる事になります。(頂間距離とレンズの後頂点屈折力から計算できます。)
コンタクトレンズとメガネの網膜像の比較
ここで入射瞳から3.6mm前に装用されるコンタクトレンズと入射瞳から15.6mm前に装用されるメガネレンズでの網膜像の大きさの比を上の式に当てはめて考えてみます。(頂間距離の違いによる網膜像の大きさの違い)
上の図がエクセルで計算した解とグラフです。
眼鏡(入射瞳から15.6mm前に装用される)よりコンタクト(入射瞳から3.6mm前に装用される)の方がプラスレンズでもマイナスレンズでも倍率(裸眼のままの網膜像と、矯正レンズを装用したときの網膜像の比)が少ないことが読み取れます。
厚みのあるレンズの眼鏡倍率SM(Spectacle Magnification)について
SM=SMp×SMs
厚みのあるレンズの眼鏡倍率SMはSMp(Power Factor)とSMs(Shape Factor)の積で求められます。
- SMp(Power Factor)は度数要素でレンズの屈折力に依存します。
- SMs(Shape Factor)はレンズの厚さおよびカーブに関わる形状要素で像側主点から目の入射瞳までの距離に依存します。
SMp(Power Factor)について
レンズの厚さが無視できる時は、眼鏡倍率はこのPowerFactorのみで表されます。
SMp(Power Factor)=1/1-aDv----------------------------------------公式①
Power Factorは頂間距離とレンズの後頂点屈折力から計算できます。
SMpは度数に関するSMのことなので後頂点屈折力と a(一般に15.05mm(12mm+3.05mm))で計算可能です。以下に表を示します
上の表のように
a:頂間距離(レンズ後面と角膜前面までの距離)+角膜前面から入射瞳中心までの距離
Dv:レンズの後頂点屈折力(一般にレンズの度数:単位Diopter)
とした場合
左右の度数は同じ+2.00Dで左眼のみ「a」を変えた計算例です。
右眼はデフォルトの頂間距離12mmで眼鏡拡大率は約3.1%です。
左眼を例えば頂間距離14mmにすると約3.53%の眼鏡拡大率があります。
左眼の頂間距離12mmから14mmに変えただけで0.43%ほど拡大します。
SMs(Shape Factor)について
- 中心厚を変えて網膜像の倍率を変化させる方法
- 前面カーブを変えて網膜像の倍率を変化させる方法
- レンズの屈折率を変えて網膜像の倍率を変化させる方法
Shape Factor=SMs=1/(1-t/n×D1)------------------------------------公式②
②のSMsはレンズの中心厚、レンズの屈折率、レンズの前面の屈折度から計算できます。以下に表を示します。
右眼レンズはデフォルトの状態です。度数が+2.00ありSMが約3.52%拡大してます。左眼レンズのパラメータを指定したサイズレンズ(表最右は頂間距離:14mm, 前面カーブDv:5カーブ、 屈折率n:1.5, レンズの中心厚t:6mm,)とした場合、拡大は約5.64%なので、その差約2.12%だけ左眼の網膜像の拡大が図られた事になります。4項目のファクターを上手く組み合わせてメーカーに発注しているのがサイズレンズになります。
a:頂間距離(レンズ後面と角膜前面までの距離)+角膜前面から入射瞳中心までの距離
Dv:レンズの後頂点屈折力(一般にレンズの度数:単位Diopter)
D1:レンズの前面の屈折力(単位Diopter)
t:レンズの厚さ
n:レンズの屈折率
厚みのあるレンズのSM(Spectacle Magnification)は、レンズの屈折力と像側主点から目の入射瞳までの距離によって網膜像の大きさが変化します。
サイズレンズに関わる主要点について
厚さのあるレンズの主点
厚さのあるあるレンズでは、光線がレンズを通過するとき、レンズの前面と後面とで屈折しますが、レンズ表面とは別のある平面で1回だけ屈折したと見なすことが出来ます。この平面を主平面といい主平面と光軸との交点が主点といいます。
厚さのあるレンズの節点
節点は理論的な光学中心であります。
第1節点に向かって入射する光線は、第2節点から入射光と平行な方向に射出します。レンズの両側の媒質が同じである場合には節点は主点と一致します。
主点位置と網膜像の関係
薄肉レンズの場合(上図の上)は、第1主点と第2主点は同じ場所にありレンズの光学中心に入射した光線は同じ場所から平行に射出しますが、
レンズが厚くなれば第1主点位置と第2主点位置の間がずれ、かつ凸レンズの場合レンズ前方に移動するので光線のズレが大きくなり網膜像もそれにつれ大きくなります。
上図では薄肉レンズの網膜像の大きさが①で厚肉レンズの網膜像の大きさが②となります。
厚さの違いと主点移動の関係
上図のごとく厚さが増すと凸レンズの場合主点位置は前方に移動します。
凹レンズの場合は厚さが増すと凸レンズの場合主点位置は後方に移動します。
凹レンズの場合目に近づけると網膜像の縮小が抑えられます。
同じ理由で厚さが増すと主点位置が目に近づき網膜像の縮小を抑えられます。
カーブの違いと主点移動の関係
上図のごとくカーブが強くなると凸レンズの場合主点位置は前方に移動します。
凹レンズの場合はカーブが強くなると主点位置は後方に移動します。
凹レンズの場合目に近づけると網膜像の縮小を抑えられます。
同じ理由でカーブを強くし主点位置を目に近づけると網膜像の縮小を抑えられます。
最後までご覧くださりありがとうございます。